函館市の工藤壽樹市長は4月3日、国と電源開発梶iJパワー)を相手取って、大間原子力発電所の建設差し止めを求める訴訟を起こした。大間原発の建設地は青森県下北半島北端にある「大間のマグロ」で有名な大間町*1の西海岸である。函館市からは南南東に約23kmしか離れておらず、津軽海峡の対岸なので「肉眼で見える距離*2」(工藤市長)だ。
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2008年5月に着工したが、11年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第1原発事故で工事は中断したものの、12年10月、「着工済の原発の建設は引き続き認める」という野田政権の方針で再開された。ちょうどその翌月、中核市サミットが青森市で開かれ、当時中核市市長会会長だった私*3はその懇親会の場で函館市の工藤市長と雑談の機会があり、市長がとても憂鬱そうな表情で「うちは青森市よりずっと大間に近いのに、函館には何の話もなく建設再開って、おかしいですよねえ」と語っていたのが印象に残っている。 |
そもそも国は、福島の事故を教訓とし、万一の原発事故の際に被害が大きく、危険となる地域を「原発から8〜10km」から「30km以内」に改めた。市町村などの地方自治体は住民の安全、生命、財産を守る責務あり、原発30km圏の函館市には、大間が稼働すれば、住民避難計画などの策定義務が生じる。今回の訴えで函館市は、「30km圏内の函館市や道南地域への説明もなく、また同意を得ることもなく、建設が再開され、建設後には大間原発の事故を想定した地域防災計画や避難計画を定めることを義務づけられることは、整合性を欠き、誠に理解しがたい」と強く主張している。私もこの意見に全く同感だ。 |
ご承知かと思うが、和歌山県には原発がない。大阪からそう遠くなく、海に面していて、県中部以南は人口密度も低いという、原発立地に「おあつらえ向き」の条件が整っているので、現に過去に4回原発建設話があったが、すべて地元の反対で実現しなかった*4。 |
特に、和歌山市が30km圏内となる日高郡日高町では、1967年から原発誘致の動きがあり、35年以上にも町を二分する対立が続いたが、86年のチェルノブイリ事故以後は反対派が優勢となり、90年以後反対派町長が2代(各3期)続いた*5こともあり、05年に国は同町の電源開発促進重要地点指定を解除、関西電力も計画を最終的に断念したとされる。 |
話を大間原発に戻す。政府の原発政策は、福島事故直後の「将来的には原発ゼロ」という脱原発方針から大きく転換、原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、再稼働を進めることを閣議決定した。「将来の経済発展に原発は必要」が先に立ち、函館市の提訴も、福島の悲惨な事故の教訓も、小泉元総理が提起した最終処分という難題も、「原子力に依存しなくても良い経済・社会構造の確立を目指す」という安倍政権誕生直前の衆院選公約*6も、すべて知らぬ顔で通す。「のど元過ぎれば熱さを忘れる」とは、まさにこのことである。 |
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